都市の創造
〜みなとみらい21〜
都市の創造
日本には優れた建築はあっても、その都市は醜いというあまり有り難くない定評があります。過去の都市計画の遺産を食い潰し、都市への新たな貢献をすることなく、場当たり的で現状追認の醜い街並みしか生んでこなかった今世紀日本。豊かさは次世代とはつながらず、刹那的な消費に費やされ、富を活かす長期的な展望と忍耐にも欠け、うたかたのバブルと消えてしまったのでしょうか。
したがって、「みなとみらい21」のようなグランドデザインのある巨大な都市計画は絵に描いた餅というのが定説でした。現実には細切れに乱開発されるか、いつまでも野ざらしのままでいるかのいずれかというところでした。ところが今回、このみなとみらい21地区に都市が築かれつつあります。それも当初計画のマスタープランに沿った街が姿を現したのです・これは快挙といってよいでしょう。
広大な埋め立て地に、ぽつんぽつんと建ち、活気ある都市的賑わいに欠ける進行開発地の感じが払拭され、計画的街区、それも超高層オフィスビルが主体の街並みが完成したのです。桜木町から先端のパシフィコ横浜まで1キロを越えようという距離を、動く歩道と大きく途切れることのない商業施設によって、無理なく誘導され、その上部にはオフィスが集積しています。いわば、丸ノ内と銀座の風格や歴史、グレードは備えていません。しかし、軽くさわやかな品格のある街並みと言えます。
マスタープラン
建築単体にしか興味が無い方には、この街は確かに魅力的な街とは言い難いかも知れません。特段に高さの高い建築はあっても、別格の建築があるわけではないからです。しかし、日本人の好きなロンドンやパリ、ニューヨークといった街の魅力は統一された、あるレベルの建築の集合によって初めて生じるものです。それらの街を創りあげたものと同じ感覚と意欲が、ここにはあります。そして、みなとみらい21の計画にとって、初めて都市的な街区の連担が出来上がりました。色彩や高さまで考えられた町づくり協定も含めたマスタープランに従い、約50万平米という巨大な街区が既存のランドマークタワーとパシフィコ横浜の間を埋めたのです。今後は、行きと帰りが違うルートを使えるようなサーキュレーションの完成が待たれます。
▲横浜美術館の広場から
▲ランドマークタワーとパシフィコ横浜の間を滑らかにつなごうとデザインされていることがわかる。
外構
丸ノ内のように街路が機能空間だけで人々が淀む場所のない街は、コンクリートジャングルという汚名を着せられてしまいます。しかし、ここでは街路は十分に寄り道可能で、さまざまな大きさの広場が歩道に隣接し、歩く楽しさを演出し、距離感を和らげることに成功しています。飲食施設と水と緑が配され、くつろげる場所としての街路があります。これらのカジュアルな広場に挟まれ、フォーマルなオフィスエントランスがあり、これも水と緑が配されていますが、フォーマルとカジュアルのお互いの雰囲気が適度にわかり、閉じていないので、街路の一貫性を保ちつつ変化をつけています。
また外装の色合いも、クイーンズスクェア両端に位置する既存のランドマークタワーとパシフィコ横浜の両者の中間色が基本となっており、周囲と調和した街並みを築こうという努力がうかがわれます。
▲オフィシャルな感じのオフィスエントランス前の庭
▲街路からパンパシッフィクホテル横浜とパシフィコ横浜の二つのホテルを臨む。
▲夏場には泳ぐ子供が続出の親しみやすい水の広場
▲イベントを催さないときはベンチを置くなどの工夫が必要な程の賑わい
モール
接続する同規模程度のモールであるランドマークプラザは、全ての店舗が大きく開放された形式であるのに比べ、クィーンモールは、商業施設のモール面への露出が少なくなっています。そのため、白色で統一され、商業施設特有のにぎやかさが抑制され、それが上品で爽やかな品格をもたらしているように感じられます。反面やや単調で、博多キャナルシティーのように憩える場所が少なく、大きく白い空間は、狭いところの好きな日本人にはあまり落ち着くところが少なく感じられるでしょう。つまり空間に遊びがなく、あまり積極的に楽しませてくれない、目的志向の機能的な大人の商業施設といえます。
上部に膨大なオフィスを抱える街としては、新宿高島屋タイムズスクェアや、博多キャナルシティーの様にあまり楽しげな施設にすることは、業務をサボってしまうサラリーマンが続出してしまうためにできなかったのでしょうか。
▲商業的な成功はキャナルシティーより、むしろ遊びが少ない分、買い物に集中できるクイーンズスクエアの方が分が良いかも知れない
▲賑わいを感じさせる辻
イメージの創作
▲1階のモールは落ち着いた照明で2階のメインモールと明確に雰囲気が異なっています
▲夕刻からは温かな照明でくつろいだ感じのモールになります
ステーションコア
クィーンモール中央部の地下3階レベルで地下鉄駅舎とクィーンモールが接辞される予定で、そのためになんと、地上4階から地下3階までのガラスボックスの大きな吹き抜け、ステーションコアが設けられています。そこはまた超高層の足下でもあります。空間的見せ場であり、地下鉄開通と同時に多くの人々の行き交う姿がダイナミックに見られることになるでしょう。長大なエスカレターはどこか映画のメトロポリスの都市や、ロシア構成主義のようなレトロフーチャーな感じがします。
この大きな吹き抜けにより、オリエンテーションが分かりにくい地下空間に方向性を与えています。しかし、このような建築的工夫だけではなくこれほど大きいプロジェクトになるとサインの工夫も欠かせません。どうしてサインの出来不出来により一般来場者の施設利用の室が左右されます。実際に人々の動きを見ていると、サイン計画は成功しているようです。意匠的にも分かりやすく、街区のコンセプトにうまく馴染んでいるからでしょう。建築とちょうどよい距離とスケール感を持っているため、建築の意匠も引き立て、サインも十分な主張で来館者にアピールしているようにみえました。
▲赤いエスカレーターが地下3階から地下3階まで通じています
▲一気に地下3階から地上1階まで上る壮大なエスカレーター
▲広大なスケールのモールの中にマルチポールが続きます。
▲ エスカレーターのスケールに合わせたかのように大きいインフォメーションと時計のサイン